事業用不動産の選択 ~購入か?賃貸か?~

事業用不動産において、「購入」と「賃貸」のどちらを選ぶべきかは、経営戦略を左右する重要なテーマです。弊社では、特に企業が専任の不動産コンサルタントを活用できる場合は、購入を推奨しています。自社に専任の不動産コンサルタントがいる場合、購入(所有)の方が、より柔軟な経営戦略の立案が可能だからです。
本コラムでは、事業用不動産の「購入」・「賃貸」それぞれのメリット・デメリットを紹介するとともに、収支シミュレーションを交えながら、「購入」と「賃貸」の比較、そして不動産コンサルタントがいる場合のメリットを詳しく解説します。
CRE戦略と不動産コンサルタントの重要性
事業用不動産は単なるコストではなく、適切に活用すれば事業の競争力を強化に繋がる重要な資産です。例えば、購入した不動産を自社利用するだけでなく、一部を賃貸に回して収益を上げたり、最適なタイミングで売却して利益を最大化することが可能です。
自社に不動産に長けたスタッフがいれば、こうした事業用不動産の戦略の企画立案をする事ができますが、自社内にこうしたスタッフがいない場合、外部の不動産の専門家のサポートを受けることも有効な手段の一つです。
弊社は、法人に特化したCRE戦略(※)を専門とし、中長期的な視野で各クライアント様のサポートをしております。少しでも本コラムのキーワードで気になる点がありましたらお気軽にお問合せください。
(※)CRE(Corporate Real Estate)戦略…企業の不動産について「企業価値向上」の観点から経営戦略的視点で見直しをおこない、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方。
事業用不動産「購入」・「賃貸」の場合におけるメリット・デメリット
事業用不動産について「購入」か「賃貸」か?どちらを選ぶべきかを判断するためには、それぞれの場合におけるメリット・デメリットを知っておくことは大切です。ここでは、「購入」・「賃貸」それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説します。
購入の場合のメリット・デメリット
購入のメリット
- 資産形成
購入した不動産は企業の資産として計上され、長期的な資産価値の上昇が期待できます。 - 自由度の高い運用
不動産の改装や用途変更が自由に行えます。例えば、一部を賃貸に回して収益を上げることも可能です。 - コストの安定化
購入後の固定費(固定資産税や維持費)は、賃料のように値上がりするリスクは低いです。 - 売却による収益の可能性
市場価値が上昇した場合、購入価格を上回る価格で売却することで大きな収益を得られる可能性があります。 - 減価償却の利用
不動産の減価償却費を経費として計上でき、節税効果が期待できます。
購入のデメリット
- 初期費用が高額
購入価格に加え、登記費用や仲介手数料などの初期費用が発生します。 - 固定費の負担
固定資産税や都市計画税、修繕積立金などの維持費が継続的に発生します。 - 資金流動性の低下
資金を不動産に固定化するため、他の事業への投資資金が制限される可能性があります。 - 市場リスク
不動産価格が下落すると、資産価値が減少し、売却損が発生する可能性があります。 - 流動性が低い
必要に応じて短期間で売却することが難しい場合があります。
賃貸の場合のメリット・デメリット
賃貸のメリット
- 初期費用を抑えられる
購入に比べて初期費用が大幅に低く、事業の立ち上げや拡大期において資金を他に回すことができます。 - リスク分散が可能
不動産市場の価格変動や資産価値の下落リスクを回避できます。 - 柔軟性が高い
契約期間終了時に拠点を移転しやすいため、事業の変化に対応できます。 - 維持費不要
修繕費や固定資産税などの維持管理コストが賃貸人側の負担となります。 - キャッシュフローの安定
資金を他の事業や投資に集中させることが可能です。
賃貸のデメリット
- 長期的なコストが高い
長期間利用すると、賃料が累積して購入以上のコストになる可能性があります。 - 所有権が得られない
賃貸物件は資産として計上できず、減価償却の節税効果もありません(賃借人で設置した償却資産を除く)。 - 契約条件の制約
賃貸契約の制約により、改装や用途変更が自由に行えない場合があります。 - 賃料値上げのリスク
契約更新時に賃料が値上げされる可能性があります。 - 拠点喪失の可能性
賃貸借契約終了時、物件の所有者の都合で契約が更新されない場合、事業拠点を失うリスクがあります。
資金面から見た購入と賃貸の収支シミュレーション
ここでは、購入価格2,000万円(固定資産評価額1,500万円、固定資産税率1.4%、都市計画税率0.3%、年間修繕積立金5万円)を仮定して、10年間の収支をシミュレーションします。
【購入の場合】事業用不動産を2,000万円で購入するケース
10年間自己利用する場合のコスト例は以下の通りです:
- 購入価格:2,000万円
- 初期費用(登記費用や仲介手数料):200万円
- 維持管理費(年間):20万円 × 10年間=200万円
- 修繕積立金(年間):5万円 × 10年間=50万円
- 固定資産税(年間):1,500万円 × 1.4%=21万円 × 10年間=210万円
- 都市計画税(年間):1,500万円 × 0.3%=4.5万円 × 10年間=45万円
合計コスト:
2,000万円(購入価格)+200万円(初期費用)+200万円(維持管理費)+50万円(修繕積立金)+210万円(固定資産税)+45万円(都市計画税)=▲2,705万円
次に、10年後に売却する場合を考えます。売却時の諸経費を売却価格の5%と仮定します。
- 売却価格(諸経費控除後):
- 売却価格1,500万円の場合:1,500万円 × 95%=+1,425万円
- 売却価格2,500万円の場合:2,500万円 × 95%=+2,375万円
収支:
- 売却価格1,500万円(諸経費控除後1,425万円)で売却できた場合:
- 収支:1,425万円-2,705万円=▲1,280万円
- 売却価格2,500万円(諸経費控除後2,375万円)で売却できた場合:
- 収支:2,375万円-2,705万円=▲330万円
【賃貸の場合】月額20万円の賃料で借りるケース
賃貸の場合、以下のコストが発生します:
- 月額賃料:20万円 × 12か月 × 10年間=▲2,400万円
- 更新料(2年ごと):賃料1か月分 × 5回=▲100万円
収支(合計コスト):
2,400万円(賃料)+100万円(更新料)=▲2,500万円
賃貸では売却益が発生しないため、このコストがそのまま総支出となります。
【収益目的の場合】売却戦略を考慮した場合
購入物件を収益利用した場合のシミュレーションです:
- 賃料収入:20万円 × 12か月 × 10年間=+2,400万円
- 売却価格(諸経費控除後):2,000万円 × 95%=+1,900万円
収支:
- 総収入:2,400万円(賃料収入)+1,900万円(売却価格諸経費控除後)=+4,300万円
- 総コスト:▲2,705万円
- 収支:4,300万円-2,705万円=+1,595万円
購入と賃貸の比較:購入の場合は不動産コンサルタントの存在がカギ
購入の場合、不動産コンサルタント(社内外スタッフ)のサポートがあれば、柔軟な活用戦略を立てることができ、経営の選択肢が広がります。一方、賃貸は初期費用を抑えられますが、長期的にはコストが固定されるため、資産形成や収益化には向きません。
事業用不動産の購入を検討する際には、専門家の助言を受けながら、将来的な売却や収益利用を含めたCRE戦略を構築することが重要です。
結論:自社の未来に合った最適な選択を
「購入」と「賃貸」のどちらを選ぶかは、自社の資金状況や事業戦略に依存します。しかし、専任の不動産コンサルタントがいれば、購入による柔軟な経営戦略の実現が可能となり、長期的な利益を追求することができます。専門家のアドバイスを活用し、経営資源を最大限に活用する選択をしましょう。
弊社は、法人に特化したCRE戦略を専門とし、中長期的な視野で各クライアント様のサポートをしておりますので、是非ご相談ください。

大学卒業後、大手総合建設会社(東証プライム上場)の経営企画セクションで約10年間、業種の異なるグループ会社10社を含む、数多くの経営企画、新規事業の立上げやM&Aに従事。自ら新規立案した事業の全てに当事者として、寝る間を惜しみ地を這うような実務(PDR:Prep(準備)=Do(実行)=Review(評価))を実行。確実な落とし込みまでを行なう。 その後、財閥系大手不動産会社のホールセールセクションで約9年に渡り不動産コンサルティング業務に従事。新設部署の立上げ期であったため、既存顧客はゼロに等しく、顧客のほぼ全てを自ら新規開拓。主に法人のCRE戦略を対象とした本支店・店舗・工場の移転統廃合支援、売買(所有権・借地権)、事業用定期借地、調整区域開発、法的整理(清算・破産)に基づく不動産処分等、幅広い不動産企画を提案し実行。 これらを経て「株式会社FPコネクト」を設立。M&A実務支援・任意売却・不動産企画を専門に事業展開中。
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